施術日誌
お悩み | 腰痛、膝痛 |
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危険な腰痛
定期的にメンテナンスで通われている40代の女性がいました。
いつもは一人で来るのですが今日は彼氏に送って来てもらったようで、付き添いの彼が椅子に座って終わるのを待っています。
女性の施術が終わってふと見ると彼氏さんの顔色が酷く悪く、雪印のコーヒー牛乳のような茶色をしていてツヤもありません。血の気が無いような茶色の顔は内臓の疲れがありそうです。
人を怖がらせる事を出来るだけ言わないというのが僕の基本方針なのですが、さすがにコレは言わなければと思わせる程の顔色です。
「彼氏さん、顔色悪いですけど健康診断受けたことありますか?」と聞くと、あからさまに嫌な顔をして「だからこういう所来るの嫌なんだよなー!俺ぁ病院大っ嫌いなんだよ!」と不貞腐れたように言います。見た目通りのちょっと怖い人です。
…ぁぁ、余計な事を言ってしまった…と思いましたが、やはり言った方が良いと気持ちを奮い立たせ「腎臓か肝臓かどこか疲れてますよきっと」と僕が言うと先祖代々腎臓の病気を生まれつき持っている家系だと話してくれました。
それならばなおさら…と思いましたが「まぁ、病院嫌いなら仕方ないですね。すみません余計な事言いました。」と謝ってお帰り頂きました。
それから10日くらい後だったでしょうか、その彼氏さんから電話がかかってきました。
「先生、腰が痛いんだけど見てくれる?」「ええ、もちろんです。ではお待ちしてますね。」と電話を切ると、なんだか頭が少しモヤモヤします。この前来た時、腰が悪そうな体に見えなかったなぁ…なんだか腑に落ちないというか嫌な予感がしました。
しばらくして彼氏さんが到着しました。酷く腰が痛むらしく顔を歪めて腰から手が離せないようです。
僕は問診もそこそこにベッドに寝てもらいました。ところが…体は歪んでいるものの腰痛のきっかけになっていそうな所がありません。
…やっぱり何かおかしい…と感じながらも、基本的なバランスを取る施術3点をパパっと施術してみると「あれ??治った!」と急に言い出すのです。起き上がってグイグイ身体を捻っても全く痛くないと言うのです。「すげぇな先生!!」と大喜びしていますが、僕は複雑な気持ちになっています。施術開始3分、まだ腰痛のアプローチらしい事はしていないのに。
…やっぱり、病院に行った方が…と思いましたが、また嫌な気分にさせると思いノドまで出かけて飲み込んでしまいます。
その1週間後、また彼氏さんから電話がかかってきます。「先生、今度は膝が痛くなってよぉ」「じゃぁすぐに来てください。」と電話を切ると今日こそは言おうと決意します。
彼氏さんが来て施術しますが、またです。チョンチョンと2か所触っただけで痛みが消えます。
「やっぱすげぇな先生!」と、はしゃいでいますが僕は真顔で「やっぱり何か変ですよ。病院に行ってください。」とお伝えすると急に表情が豹変して「もういいって!」と突っぱねてきます。…まぁしょうがないか。とそれ以上強く言う事をしませんでした。
更に1週間後、また彼氏さんから電話が来ます。「先生…寒いんだ。寒くて風呂から出れない…もう2時間も風呂に入ってる。」と言うのです。
「救急車を呼んで下さい。僕の所に来ても出来る事はありませんよ。」とお伝えして、電話を切りました。
その後、彼氏さんからは連絡がないまま2か月が過ぎました。
そんなある日、メンテナンスを受けに彼女の方が一人で来ました。
「先生…あの人、亡くなっちゃった…お腹に動脈瘤があったみたい。」そういうとポロポロと涙をこぼしていました。
詳しく話を聞くとあの後救急車で病院に行き、集中治療室に1週間入っていたものの手術できる医師を確保できずに血管が破裂して亡くなったといいます。
血管のコブがあちこちの神経を圧迫しておかしな痛みが出ていたのです。少し姿勢が変化するだけで痛みが無くなったという謎の現象がこれで全部解けました。でも遅かった…。
もしあの時、もっとあの時、後悔と無力感で一杯になります。
針灸の名人には、全身の血管の状態まで言い当てる先生もいると聞きますが、僕にはそこまでの技量はありません。
「でもね、あの人、長生きしたくなかったんだと思う。全然自分の体を大事にしないんだもん。」と彼女はいいます。
「そうでしたか…」とだけ答えて僕は何も言えなくなりました。
もっと腕を磨かなくては…