手技のかみだいら

施術日誌

30人の観衆が見る前で

お悩み 腰痛

30人の観衆が見る前で

このお話は33年前、僕が整体士見習い時代に経験したド緊張物語です。

元医療関係のお仕事をされていた方が整体の研究をして手法を確立。更に「温泉に入ってもらいながら整体を受けてもらった方が施術効果が高くなる」という事に着目し、自費で温泉を掘って旅館を建て、湯治場として開業した温泉旅館がありました。
高校を卒業後、僕はそこに就職したのです。

その温泉旅館ではセラピストの育成も行っており、僕も旅館の雑用係として働きながら整体を教わるという日々を過ごしていました。
整体の先生達がゴッドハンド揃いのとても人気の温泉で、この日もお客さんでごった返していました。

施術室で師匠の施術を見ながらメモを取っていた時の事です。
「プルルル…プルルル…」と内線が鳴ります。電話を取るとフロントのお姉さんから「大広間で動けなくなった人がいるから見てあげて!」と呼び出しが掛ったのです。
先輩や師匠は分刻みのギチギチスケジュールで仕事をしていて、手が空いているのが僕しかいません。でもまだ人一人を触る事を許されておらず、初歩的な知識と経験しかありません。師匠に相談です。
「先生、どうしましょう。」と聞くと「俺らが行ってる暇あるわけねえだろ!お前が行け!」「はいぃ!」
当時20歳のペーペーでしたが、負けん気だけはあります。僕は小走りで大広間に向かいました。

「失礼しまぁす。」ガララ…と引き戸を開けると30畳ほどの座敷に、居るわ居るわ、お客さんが30人を優に越えてくつろいでいます。
…ひゃぁ今日も混んでるなぁ…と思いながら奥に進むと横たわっている70歳くらいのおばあぁちゃんがいました。
「どうされましたか?」と聞くと「腰が痛くて…起きれなくなっちゃった。」というのです。…え、これ俺がやるの?マジか…

一応白衣を着てはいるものの、どこからどう見てもペーペーの小僧が何をしでかすのかと、大衆の目は僕一点に集まります。

骨粗鬆症もありそうな弱々しいおばぁちゃんを見習いの自分が触るのは危険すぎる…どうする…どうする…その時ハっとひらめきました!

操体法があるじゃないか!

操体法とは橋本敬三先生という昔のお医者さんが考案した「痛くない方へ動かす事で痛みを取る」という方法で、こちらから圧を掛けたりすることが無いので安全性は抜群です。つい最近、師匠から習ったばかりでした。

おばあちゃんは仰向けのまま動けません。片方の膝だけ立ててもらいます。大丈夫そうなので、もう片方も膝を立ててもらいます。
この状態で横に膝を倒し、どちらか一方だけに痛みが出るようなら操体法が使えます。周りのお客さんも「なんか始めたぞ?」と集まってきました。

運命の瞬間です。

「膝を左に倒してみて下さい。」…「あ痛たた!」
「一度戻しましょう。今度は右に倒してみて下さい。」ここです。これで痛みが出たら万事休す。次の策が思いつきません。すると…
「あ…コッチは痛くない。」(よっしゃぁ!)心の中でガッツポーズが出ます。
「それでは真ん中に戻して、今度はフーっと息を吐きながら痛くない右に倒して行きます。はい、フーー…大丈夫ですか?」
「大丈夫。」これを3度繰り返します。

その後、ドキドキの再検査です。痛かった左に倒せるようになっていたら大成功です。
「それじゃぁ左にもう一回倒してみましょうか。」と促し、ゆっくり倒してみてもらいます。
「あ!痛くない!」
「お、いいですね!じゃぁゆっくり起き上がってみましょうか。」

「起きれた!」

「ぉおおおおお!」「やっぱ餅は餅屋だなぁ!」とお客さんの歓声が湧きます。…うぁコレ気持ちいい…と心で思いながらも「いや、大した事ないっすょ」と照れ笑いをしながら施術室に戻ります。

師匠から「おう、どうだった。」「あ、イケました。」と得意満面で答えると「…で、何やった?」「操体法の膝倒しでイケました。」と言うと「フン!」と鼻であしらいましたが横顔が少し嬉しそうだったように見えました。

見習い期間に、こんな成功体験をしてしまった僕はこの日を期に整体の面白さにのめり込んで行く事になったのでした。

メデタシ、メデタシ。

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