施術日誌
お悩み | 片頭痛 |
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片頭痛が産後に悪化
5年前に第一子を出産後、片頭痛が急激に悪化したという女性が来院しました。これまでも頭痛は多少はあったようですが、痛みのレベルも頻度も今とは比較にならない程、軽いものだったそうです。
現在は毎日頭痛があり、ズキズキガンガンの激しい頭痛が始まると薬を飲み部屋を暗くして布団にくるまるしか術がなく、その痛みが過ぎ去ってからも締め付けられるような痛みは残り頭痛を意識しない日は無いといいます。
観察
立った姿勢は、やや前傾姿勢ではあるけれど姿勢の悪さはそれほどでもありません。左右の傾きも少なく体の使い方の問題は少ないように感じました。
ところがこの女性表情が暗い、いや暗いというより怒っている感じです。
「今も強く痛みますか?」と聞くと「いえ、今は比較的痛みは少ないです」と答えますが、そんな風には見えない程に表情が険しいのです。
初日の観察と施術
姿勢もそれほど悪くない、動作の乱れも少ないので細かい部分の触診をして行きながら施術します。
下半身はあまり目立った異常は無さそうです。次に、頭痛のきっかけになりやすい肩と首を触診していきます。
「痛かったら言ってくださいね」とお伝えして首を少し触れるとビクン!と身体を縮めます「あぁごめんなさい痛かったですね」「いえ、大丈夫です」とは言ってくれるものの、この場所を今日は積極的に触る事は出来ません。
過敏になっている所を刺激すると後で辛くなってしまうので作戦変更です。
まずこの方の神経の緊張を鎮めてから日を改めて本命に手入れをして行く事にします。
オヘソでリラックス
神経の緊張を鎮める最も有効な方法は体の前側を緩める事にあります。特にお腹です。
人は恐怖や怒りを感じた時に腹筋に力を入れて動物の弱点であるお腹を守ろうとするのです。
犬や猫も心を許した人間にしかお腹を見せないと言いますが、これは攻撃されたら命に関わる場所がお腹である事を本能で知っているからなんですね。
人間の場合、神経の緊張で最も固くなりやすい場所はオヘソの周りになります。仰向けになって頂きオヘソを手のひらで温めるように緩めて行きます。そうするとコロコロ…と腸が動き始める音が伝わってきます。
時間をかけて十分に腸の動きが付くまで待っていてあげます。
3分程オヘソの手当てをしていると少し呼吸が深くなってきました。
そのまましばらく休んで頂いて、この日の施術は終了です。
車で1時間もかけて頭痛の施術を受けに来たのにお腹に手を置いて終わり?と思われるのは当然ですよね。この辺りは口頭で説明して納得頂き次回に持ち越しです。
2回目の施術
3日後、2度目の来院です。
この日も表情は険しい。痛みは全く変わっていないといいますが、ここまでは想定内です。問題は次のステップに進めるかどうかだと思っていました。
この日は真っ先にオヘソから施術していきます。ひとしきりリラックスして頂いて本命の首に触れて行きます。慎重に慎重にお豆腐が崩れない程度の柔らかい圧です。小さい声で…
「…大丈夫ですかぁ?」と聞くと「ダイジョブ…」と答えてくれます。なんとか次のステップに行けました。
この日も短時間で施術は終了します。
3回目の施術
更に3日後の3度目の来院です。
相変わらず毎日痛むようですが、痛みの激しさが弱くなってきたような感じがすると言います。良い感じです。
今回はオヘソ周りが固くなかったので首周りを重点的に施術していきます。
4回目の施術
更に3日後、4度目の来院です。
アレ?この人だれ?と一瞬、思うほど別人のような笑顔で来院されました。
「先生、今日痛くないんです!」「それは良かったー!」と大きな声で僕も喜びましたが、内心では(こんなに人の顔って変わるんだ)と密かに思ってしまいました。
5年ぶりの頭痛の無い1日は、それはそれは嬉しかったでしょうね。いつまで痛み続けるのか、一生このままなのかと暗闇の中に居続けた人にとって、たった1日の痛みのない日がどれだけ大きな希望の光に感じたことでしょう。
最高の雰囲気のまま、この日の施術に入ります。
首の過敏は完全になくなっていますが、まだ不安材料が触診する手に伝わってきます。(もうちょいだ)と心でつぶやき、しっかり効かせて仕上げて行きます。
施術後「頭痛のきっかけになっていた所はかなり良くなって来てますので、思い切って1週間あけてみましょう。」と伝え、この日は終了します。
5回目の施術
1週間後5度目の来院です。
なんと!また表情が暗い。でも初回のような怒りの顔ではなく、何か悲しそうな寂しい表情です。その方がポツリと話し始めました。
「先生、私、頭痛の原因分かりました。あれからも全然頭痛は無かったんです。でも一昨日子供がイタズラした時に大声で怒鳴ったんです。そしたらズキーン!ってまた始まったんです。自分で作ってた痛みだったんだって、その時分かりました。」
「なるほど、それは大切なことに気付けましたね。原因がはっきりしたなら、もう大丈夫ですね。」と話し、この日の施術をしていきます。
優しくなったお母さん
「慢性的に痛み出すようなことがもしまた起こったら、すぐに来てくださいね。」とお伝えし5回目の施術を終えます。
「先生、ほんとにありがとうございました」と、どこか申し訳なさそうに深々と頭を下げ、お帰りになられました。
申し訳なく思っていたのは僕にではなく、ご家族とご自身の体に対して思っていたのでしょうね。
これから優しいお母さんになる事は間違いなさそうです。
感情のエネルギーはとても強く人の体を動かします。特に怒りと悲しみは破壊的なエネルギーになって人の体を傷つけます。
人に優しくする事が自分にも優しくする事に繋がるんですね。