施術日誌
お悩み | どんな動きに対しても腰が痛むようになり、3年間コルセットをし続け、毎日のように湿布、痛み止めの飲み薬を使用しているそうです。更に左右に肋間神経痛を頻発するという状態です。 |
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観察
全ての動作で様々な所への痛みが出る腰痛に加え、いつ爆発するか分からない肋間神経痛を左右に複数抱えている状態だったので、通常は静止している姿勢と動きの姿勢を観察するのですが、動きのテストは危険だと判断し、静止姿勢と触診のみで進めて行きます。
コルセットを外して頂くと、腰の不安から両手を太ももの前に付いたまま離す事が出来ずにいます。3年もコルセットで固めていたのですから無理もありません。
かなり痩せている方なのに下腹部がポッコリと出て、呼吸はとても浅く特に吸う息に力がありません。少し吸っては強めに吐くのを繰り返しているので、「ハァ……ハァ…」と吐く息だけが聞こえます。
猫背も強く十分に身体を起こす事は出来ません。色々と観察しているとこの女性がポツリと…
「ここのチラシを見て神様の救いだと思ったんです。」と涙ぐんで仰いました。
こちらの身が更に引き締まります。
「大丈夫ですよ!」と返しましたが、その時の僕は柔らかい笑顔は作れていなかったと思います。
考察
一通り見させて頂いて僕が思ったのは「腰以外すべて問題がある」という事でした。
意外に思われる方もいると思いますが、多くの腰痛は腰椎(腰の背骨)以外の動きの悪さが原因なのです。
腰の骨がズレているという事がレントゲンなどで分かったとしてもそれは結果であり、原因じゃない事がほとんどなのです。
もう少し詳しく説明すると、腰より下の股関節や腰より上(背中、肋骨)の動きが悪いから動作の時に腰の骨が大きく動かなければならなくなり、その結果腰の骨がズレ始める。という事なのです。
施術
まずは痛んでいる腰から出来るだけ遠い手の施術から始めて行きます。いきなりベッドに寝かせるのは危険なので座ったままで前腕(肘から手首まで)と上腕(肩から肘まで)の施術をゆるゆると世間話をしながら時間をかけて行います。
ここでも「腰が痛いのに腕なんか関係あるの?」と思われる方も多い事でしょう。
少し説明しますね。
先ほど説明したように腰自体は動きを強要されて痛めた結果に過ぎません。ならば肋骨と股関節の動きを付けるという事になるのですが、肋間神経痛を起こしやすくなっている上半身を手入れもせずにベッドに寝かせるのは危険があると思い、肋骨に少しでも動きを付けるために腕の緊張を取りに行ったのです。
肋骨と腕に何の関係が?とまたまた疑問に思うでしょうが僕の経験では上腕の前側は胸の硬さに連動し(赤)前腕の前側は腹部に連動する(緑)と考えています。その中間にあたる肘の前側は横隔膜周辺と連動する(紫)訳です。
つまり、猫背が強く胸が硬く開けない体なら、まず腕の前側の柔らかさを付ける事が背中を伸ばすために必要な肋骨の柔らかさを確保する安全策だと考えたわけです。
そんなこんなで両腕のこわばりを採ると「ハァ…ハァ…」という呼吸音が無くなって来ました。
少し胸が開きやすくなってきたようです。
ベッドに横寝して頂き、足首、スネ周り、太もも周辺と動きの妨げになっていそうな部位はシラミ潰しに打ち消していきます。
その後、両手両足から遠隔的に施術した甲斐もあってか、すんなりうつ伏せになれました。
…さてここからです。
股関節周りを触診してみると不規則な硬さが入り乱れています。「不規則な」というのは立ち姿や足の触診とは連動し得ない筋肉の硬さで、「この重心でこの関節の使い方ならこんなパターンになる」というセオリーを無視した硬さという事です。
この現象は「かつての姿」を現しています。簡単に例えるなら「以前は右に体重をかけることが出来なかったけど今度は左が庇いきれなくなり左にも体重をかける事が出来なくなった」という、この方の痛みの歴史がそのまま残ってしまっているのです。どんどん制限が広範囲に広がり、今現在の体の歪みとは無関係なこわばりが今もなお残ってしまっているんですね。
我慢して我慢して痛みを庇い続けた体の特徴といえます。
「かぁ~…」と、つい本音を漏らしてしまう僕の悪い癖が出てしまいます。
こんな時は新しい歴史から順に一つ一つ消していく作業になります。
歴史の見分け方としては新しいもの程痛みが強く比較的治りやすい特性を持っています。
「今はこの動作が一番強く痛む」というものから順に施術する事で、次に顔を出してくるのは先月まで痛かった所、それを片付けると去年痛んでいた所と痛みの歴史を巻き戻していく事が出来ます。
そんな風に施術していると、その人の痛みの起源が見えてくることがよくあります。
「元々ここだったんだなぁ…庇っているうちにこっちに来て、それも辛くなってあっちに行ったんだなぁ…よく我慢して来たなぁ」と自分の事のように深くその方の体を理解し始めると、ある「ゾーン」に入ってきます。
もう、お話を伺うまでもなく「もうこの動作は痛くないでしょ?んで次はここの痛みを取って欲しいんですよね」というエスパー状態になってくるのです。
こうなってくると、もう怖いものはありません。
股関節周りを最終目標から見て4割程度、一番デリケートな肋骨周りは、さする程度にとどめ初回の施術は終了しました。
「痛み止めの飲み薬と湿布はジッとしていてもズキズキするような痛みがある時だけにして下さいね。出来るだけ使わない方がいいです。コルセットは着けている時と外している時の痛みを比較して本当に楽になるのであれば着けていても構いませんからね。」
と告げこの日はお帰り頂きました。
帰って行くときの後ろ姿を見て「うん。良い。」と密かに手応えを感じながらお見送りしました。
2度目の来院
3日後に2度目の来院の日、次はあの女性だなぁと待っていると、ガラガラっと入口の引き戸を開けるスピードが速い。「よし。」と既に改善を確信します。
入って来るや否やの開口一番「コルセットしなくても大丈夫でした!」とキラキラした顔で話してくれました。
「ええ!?ほんとですかぁ!?3年外せなかったのに!?1回でぇ!?」手応えはあったものの、そこまで急に良くなるとは思っていなかったのでビックリしてしまいました。
「洗い物もコルセットでガチガチにして片肘を付きながら洗ってたんです。それがコルセット無くても普通に出来るようになりました!」
「それは凄い!良かったですねー、いやそれにしても1回でここまで良くなるとは僕も思ってませんでしたよ」
その後もひとしきり楽になったエピソードを聞かせて頂き、2度目の施術に入りました。
大きな動きではまだまだ痛みはありますが、もうここまで来れば大丈夫です。
あとは少しずつ歴史を巻き戻して行くだけです。